セクハラ行為を警察に告訴するには?

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セクハラの被害にあった場合には、会社やセクハラ加害者に対する慰謝料請求なども対応の1つですが、セクハラは、場合によっては犯罪にあたり、刑事罰の対象となります。

慰謝料の請求といった金銭的な解決のみではなく、「自身の身を守りたい」、「相手には刑事罰を受けて欲しい」などと思う方も多くいらしゃいます。この場合には、告訴をすることで、警察の協力を得るのが有効な方法の1つです。

今回は、セクハラ行為を警察に告訴する方法についてまとめています。

セクハラとは

セクハラとは、セクシュアル・ハラスメントの略で、一般的には、相手が嫌がるような性的な言動のことを指します。

セクハラという言葉が広まるきっかけになったのが、平成元年、セクハラを理由とした国内初の民事裁判が起こされたことです。この裁判では、福岡市内の出版会社の女性社員が男性編集長に「結構遊んでいる」「夜の仕事が向いている」などと中傷し続けられたことを理由に、男性編集長と会社を相手に、慰謝料などの損害賠償を求めました。平成4年4月16日に下された判決では男性編集長の「原告の異性関係を中心とした私生活非難などが退職につながった」とセクハラ行為を認め、編集長と会社に165万円の支払いを命じました。

それまで多くの女性たちが泣き寝入りになってしまっていた問題に初めてスポットライトがあたり、女性の勝訴で終わったことや、セクシュアル・ハラスメントという言葉が流行語大賞の新語部門金賞を受賞することになった事で、セクハラという言葉が一般的に広まり、セクハラに対する認識がされるようになりました。

法律上のセクハラ

セクハラは様々なものがありますが、一般的には職場での性的な嫌がらせが多いことから、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(男女雇用機会均等法)での定義が利用されることが多いです。

男女雇用機会均等法11条1項

事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

つまり、セクハラの定義としては、①意に反する性的な言動が行われて、それを嫌がり抵抗するなどの対応をしたことにより、降格、減給、退職勧告、解雇等の不利益を受けること、あるいは、②性的な言動によって職場環境が悪くなり、仕事上の能力発揮を害されること、とされています。

また、事業主は「当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」としており、セクハラ防止義務を課されています。

さらに、セクハラ防止のための指針を厚生労働大臣が定めており、この「セクハラ指針」に従って事業主は社内体制を構築することとされています。

実際、裁判上でも、これらの男女雇用機会均等法やセクハラ指針が、法的義務違反にあたるかどうかの判断材料になっています。

また、セクハラ指針では、「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」の2つに分類が行われています。

職場でのセクハラには「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」の2つがあると、厚生労働省のセクハラ指針で分類されています。

今回は、「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」が、それぞれどのようなものであるかについてまとめています。

対価型セクハラとは

対価型セクハラとは、労働者の意に反する性的言動や嫌がらせがあった際に、労働者が拒否などの対応をとったことにより、その労働者が減給、降格(昇進の対象から外れる)、解雇、退職勧告、昇進からの除外、不当な配置転換などの不利益を受けることです。

対価型セクハラの具体例

  1. 社長が女性社員に対して、会社での立場を利用して、性的な関係を要求したが、拒絶されたため、その労働者を解雇した。
  2. 昇進を望む女性社員に対して、昇進の候補に追加する代わりに、性的な関係を要求した。
  3. 会社のオフィス内で日頃から、部下の女性社員のプライベートの性的事柄について発言していたが、女性社員から抗議されたため、人事考課でその労働者へ低評価をつけた。
  4. タクシーでの移動中に、女性社員の胸などに触ろうとしたが抵抗され、セクハラが公になる前に女性社員を退職に追い込むために、女性社員の嫌がる部署へと配置転換をした。
  5. 男性社員が部下の女性社員に対して、減給すると脅して性的な関係をもった。

環境型セクハラとは

環境型セクハラとは、労働者に対する性的言動や嫌がらせにより、労働者の就業環境が害されることとなり、労働者の労働意欲が低下するなどして、能力の発揮に悪影響が生じるなどすることです。

これは、「平均的な労働者がどう感じるか」というのが判断基準になっています。

環境型セクハラの具体例

    1. 会社オフィス内にて、上司が女性社員にボディタッチを繰り返し、女性社員がそれを苦痛に感じ、モチベーションが低下していること。
    2. 男性社員が特定の女性社員について、「男性関係がだらしない」などと性的な内容の情報を、女性社員を貶めるために継続的に流したため、女性社員の就業意欲が低下した。
    3. 女性上司に「男のくせにこんなこともできないのか」と繰り返し叱責されて、就業意欲が低下した。
    4. 男性社員が周囲の女性社員から見えるように、パソコンの壁紙をヌード画像にしており、周囲の女性がストレスを感じて仕事に集中できなくなってしまっている。
    5. 「〇〇さんって処女だよね」「〇〇くんって童貞だよね」などと、性的な経験について聞かれ、出勤が苦痛になってしまっている。

 

 

セクハラで成立する8つの罪

 

手錠

ここではセクハラ行為によってどのような犯罪が成立するのかを解説していきます。

しかし、ここで説明している犯罪や例はあくまでも一例ですので、具体的に犯罪になるかどうかは行政書士などの専門家に一度相談をするのがよいでしょう。

強制性交等罪(旧 強姦罪)

暴行行為や脅迫行為によって、被害者の反抗を抑えつけて肉体関係を持った場合には「強制性交等罪」が成立します。

つまり、殴る蹴るなどの暴行をされたり、会社内の上下関係を利用して脅迫されることで、意に反して肉体関係をもってしまった場合には、強制性交等罪での告訴を検討します。

平成29年の刑法改正で、強姦罪から強制性交等罪に罪名が変更され、男性も被害者に含まれ、肉体関係の範囲も広がり、厳罰化されました。

また、強姦罪は親告罪でしたが、強制性交等罪は非親告罪となり、告訴がなくても起訴ができるようになりました。

刑法177条

13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

準強制性交等罪(旧 準強姦罪)

強制性交等罪は、暴行や脅迫によって肉体関係をもつものでしたが、心神喪失や抗拒不能状態に乗じて肉体関係をもった場合には準強制性交等罪に該当することになります。

具体的には、睡眠中や泥酔状態、酩酊状態で、抵抗することが不可能又は極めて困難な状態にもかかわらず、性交等された場合に、準強制性交罪での告訴を検討することになります。

準強制性交等罪と、名称に「準」がついていますが、強制性交等罪と比較して罪が軽いという事ではなく、同一の重い法定刑になっています。

刑法178条2項

人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

強制わいせつ罪

上記の(準)強制性交等罪のように性交までにいたるほど悪質なセクハラではなかったとしても、「強制わいせつ罪」で告訴を検討することができます。

強制わいせつ罪は、暴行や脅迫を用いてわいせつな行為をした場合に成立する犯罪です。

「わいせつ」とは、いたずらに性欲を興奮・刺激させ、普通の人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものとされています。つまり、わいせつな行為とは、抱きついたり、陰部をあてたり、触ったりするなどのような、一般的にわいせつと感じられるような行為をいいます。

また、暴行や脅迫の程度も、被害者の意思に反してわいせつな行為をするために必要な程度で、会社内の上下関係を利用するなど、比較的軽微なものでよいと解釈されています。

強制わいせつ罪も、強制性交等罪も同じように、平成29年の刑法改正で非親告罪となっています。

刑法176条

13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

準強制わいせつ罪

強制性交等罪と準強制性交等罪と同じように、強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪も、行為に至るまでに差があります。つまり、準強制わいせつ罪とは、被害者の心神喪失や抗拒不能状態のときにわいせつな行為をする犯罪です。

睡眠中を利用したり、睡眠剤やお酒で泥酔させて、わいせつな行為をされたようなときには準強制わいせつ罪での告訴を検討することになります。

刑法178条

人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。

わいせつ物陳列罪

わいせつ物陳列罪とは、わいせつな文章や画像などを公然と陳列する犯罪です。ここまでで紹介した様な直接的な接触によるセクハラ行為だけではなく、わいせつな映像などをみせる嫌がらせ行為でも犯罪が成立する場合もあります。

例えば、職場でアダルトビデオを流したり、アダルト雑誌をみせたり、PCの壁紙をわいせつな画像にするようなセクハラ行為を受けた場合にはわいせつ物陳列罪での告訴を検討することができます。

刑法175条

わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。

暴行罪

セクハラ行為の際に、殴る蹴るなどの有形力の行使があった場合には、暴行罪での告訴を検討することができます。

例えば、セクハラでは性的関係まではいかなかったが髪を引っ張られた場合や、性的関係を断った場合に殴られた場合などに暴行罪での告訴を検討することになります。

刑法208条

暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

傷害罪

暴行を加えたときに、怪我を負わせ傷害が生じたようなときには傷害罪が成立することになります。

さらに、暴行がなくても、セクハラによって精神的なストレスを与えられ、睡眠障害のような生理機能の障害が生じた場合にも傷害罪での告訴を検討することができます。

第204条

人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

脅迫罪

セクハラ行為の一環として、被害者に対して「害を加える旨を告知して」、脅迫が行われた場合には脅迫罪が成立する場合があります。

「害を加える旨を告知」とは、加害者により引き起こせるもので、一般的に恐怖を感じる内容を伝えることです。

例えば、「殴るぞ」「今後どうなってもいいんだな?」などのように脅して、セクハラ行為をしようとした場合には、脅迫罪での告訴を検討することになります。

刑法222条

生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

被害届・告訴状で刑事責任を追及

最後に、上記のようなセクハラ行為で成立する犯罪で、セクハラ加害者の刑事責任を追及する方法を紹介します。

被害届と告訴の効果

被害届は被害事実を捜査機関に申告するのみのものですが、告訴は被害事実の申告だけではなく処罰を求める意思表示であるという違いがあります。また、告訴は受理されると、警察は証拠物などを検察官に送付しなければならず、検察官は起訴するかしないかの結論を告訴した者に伝えなくてはなりません。

つまり、告訴状を提出して受理されれば、捜査をしてもらい、一定の手続きを進めてもらうことができます。

他にも、名誉毀損罪や侮辱罪のような、事実が公になることで被害者に不利になるような親告罪といわれる犯罪については、起訴をして裁判で犯人を処罰するためには、告訴が必要になります。

告訴状の提出と受理

告訴状は、どこの警察署や検察庁に提出してもよいのですが、基本的にはセクハラが行われた場所の警察署で捜査がされるので、セクハラ被害にあった場所の管轄の警察署に提出することをおすすめします。

ただ、告訴状を提出したとしても、内容の不足・証拠が不十分・事実確認を事前にしたいなどの理由で受理をしてもらえない場合が多くあります。

そのため、行政書士などの専門家に依頼をして、告訴状の作成や、陳述書や報告書の作成、証拠の収集・提出をすることをおすすめします。さらに、実況見分や事情聴取の日程の設定を進めることで早期の受理を促すことができます。

まとめ

セクハラ行為は主に下記の8つの罪にあたり、告訴を行うことで警察の協力を得ることができます。

また、告訴を行う代表的な方法は、セクハラが行われた場所を管轄する警察署に告訴状を提出することです。

  • 強制性交等罪(旧 強姦罪)
  • 準強制性交等罪(旧 準強姦罪)
  • 強制わいせつ罪
  • 準強制わいせつ罪
  • わいせつ物陳列罪
  • 暴行罪
  • 傷害罪
  • 脅迫罪